刃物の切れ味はとても重要

家具作りでよく使われる鉋やノミと同じく、ウッドターニングでも刃物(ターニングツール)の切れ味は重要です。ターニングツールは高速で回転する材料に刃物を当てるため、より過酷で砥ぎの頻度もその分高くなります。
「最終的に細かいペーパーで仕上げるから、刃物の切れ味の良し悪しはそんなに気にしないよ!」
という方もいるかもしれませんが、ターニングツールを砥がずに使い続けると、「キャッチ」と呼ばれる現象が発生しやすくなります。
「キャッチ」とは?

材料にターニングツールが食い込む現象を「キャッチ」と言います。
キャッチが起きる原因は主に2つ。
① ターニングツールの当て方が間違っている
② 切れなくなったターニングツールを使っている
ターニングツールの当て方は良いお手本を見て回数を重ね、コツを掴むことで解消されますが、それは切れる刃物を使っていることが大前提です。切れ味が落ちて引っ掛かりやすくなったターニングツールでは、コツを掴むことすらままなりません。
キャッチは作品に傷が付いたり、割れたり、チャックから外れてしまったりして怪我をする元になることの他にも、木工旋盤(モーターやコントロールボックス)やターニングツールに負荷がとても大きくかかって、故障や破損の原因になる可能性もあります。
※木工旋盤の中には、キャッチした際にモーターやコントロールボックスを守るため、強い負荷を感じたら自動的に止まる機能が備わっているものもあります。
安全で快適に長くウッドターニングを楽しむため、ターニングツールの砥ぎを普段からしっかり行うことはとても重要なことです。
どれぐらいの頻度で砥げばいいの?
最初にお伝えしたように、ターニングツールは過酷な使い方が想定されています。
そのため、使用される鋼材も熱に強いハイスピードスチール(HSS、ハイス鋼)と呼ばれる鋼材が主に使用されていますが、それでも一般的には「30分作業したら砥ぎ直す」ぐらいの間隔で砥ぎが必要になります。
切れている時の感覚を覚え、切れ味が少しでも落ちたと感じたらすぐに砥ぎ直しましょう。
いろんな砥ぎの道具
ターニングツールの砥ぎにオススメの道具を紹介します。
ウッドターニングの定番 両頭グラインダーと専用ジグの組み合わせ

2つの砥石を回転させて刃物の砥ぎが行える両頭グラインダーは、ウッドターニングで最も多く選ばれている砥ぎの道具です。
また、ターニングツールにはガウジやスキューなど、フリーハンドで砥ぐことが難しい複雑な形状の刃物もあるため、これらの刃物を砥ぐガイドになる「グラインディングジグ」を併用するのが、定番となっています。
両頭グラインダーはスロースピードタイプがオススメ!
スロースピードグラインダーは一般のグラインダーの約1/2の回転数につくられています。
ターニングツールにおいては刃物を熱で傷めない回転数の低いものがオススメです。
粒度の目安
#36、#46 |
刃先形状・刃先角度の変更 |
#80 |
通常の砥ぎ直し・仕上げ砥ぎ |
#120 |
仕上げ砥ぎ |
鉋やノミのような一般的な刃物と比べると、粒度はそれほど高くなくても充分に切れる刃物として使えます。
砥石の種類
WA砥石 | 白い色の砥石で、ホワイトアランダムと呼ばれる素材を使用しています。HSSなど鉄鋼を用いた刃物の砥ぎに適した砥石です。 |
SG砥石 | 薄い水色の砥石で、シーデッド・ゲルと呼ばれる素材を使用しています。WA砥石と同じく刃物の砥ぎに適した砥石です。 通常のアルミナ系(アランダムなど)砥粒は結晶粒の構造上、研削中に面が平らになりやすいため頻繁にドレッシング(砥石の面直し)が必要となります。アルミナ系の中でもSG砥粒は微細結晶構造であるため研削中には微小破損や脱落を起こし、凹凸に富む面を長い時間維持できる事から、研削力が持続すると言われています。スピーディーで発熱を抑えたシャープニングを行う事が可能です。 |
グラインディングジグ
グラインディングジグの中でも特に知名度が高いのが「ONEWAY ウルバリン・グラインディングジグ」です。
砥石径6インチ(150mm)から8インチ(200mm)のほとんどの両頭グラインダーで使用できます。
砥石の片側だけ使うジグも多い中、ウルバリン・グラインディングジグは全てのアタッチメントが両側の砥石で使えるようになっているため、砥石の左側を通常の砥ぎ直し、右側を仕上げ砥ぎ用など、普段使う砥石を取り付けておくことで砥石交換の手間が省けます。
ボウルガウジやスピンドルガウジをフィンガーネイル形状に砥ぐ「バリグラインド・アタッチメント」、スキューを砥ぐための「スキューグラインド・アタッチメント」、長く使ううちに短くなってしまった刃物を砥ぎ直す時に便利な刃物台「ミニプラットフォームアセンブリー」などで、様々な刃物に対応できます。
粒度の変更もドレッシングも不要!
スピーディーに・正確にシャープニングできるベルトサンダータイプの砥ぎ機 プロエッジ

砥ぎといえば砥石を使うのが一般的なイメージですが、サンドペーパーでも刃を砥ぐことができます。
ベルトサンダータイプの砥ぎ機であるプロエッジは両頭グラインダーと比べて、粒度の変更がとてもスピーディーにできます。砥石のように初めにドレッシング(砥石の平面を出す作業)を行う必要もないため、交換してすぐに砥ぎ始めることができます。
また、スキューやパーティングツールなどを両頭グラインダーのような回転する砥石に刃物を当てると、その形に円く凹んだ状態になりますが、プロエッジは平らなため砥いだ際に刃先も平らに仕上げることができます。
両頭グラインダーではセッティングがしっかり行われない状態で砥ぎ直した際に、刃先の角度がだんだん変わってしまうこともありますが、プロエッジは常に決まった角度に簡単にセットできるので、角度ズレによる変形の可能性も低くなります。
プロエッジはターニングツールの他にも、別売ジグを用意することでノミや鉋刃、ナイフ・包丁といった刃物を砥ぐこともできます。替ベルトの種類も豊富で、それぞれの刃物に適したものや、塗装をはがしたりする際に使用できるベルトなどさまざま。
本体サイズもコンパクトでスペースを取らず、使わない時にしまっておくことも簡単にできるため、スペースに限りがある方にもオススメです。
ウッドターニングにオススメのプロエッジ専用替ベルト
アルミニウムオキサイド |
最も一般的なベルトで、汎用性が高くハイス鋼を含む様々な種類の鋼材に対応可能です。 |
ジルコニウム |
アルミニウムオキサイドより耐摩耗性に優れ、特にハイス鋼のシャープニングに適しています。 |
ダイヤモンド |
ハイス鋼は勿論、超硬などのシャープニングも可能な替ベルトです。 |
プロエッジ用の別売ジグ(一部)
究極のシャープニング環境 水冷式低速研磨機 トルメック

スロースピードグラインダーよりさらに低速で研磨、それだけでなく、常に水が触れることで発熱を抑えることができる砥ぎ機、トルメック。
ジグを使い砥ぐ角度を正確にセッティングし、低速で砥いで削る量は最小限に。
その結果、刃物の寿命が長くなります。
トルメックは粒度の変更がとても簡単なところも特徴のひとつです。
通常1つの砥石の粒度は1種類のみですが、トルメックの砥石の場合「ストーングレーダー」を砥石に押し付けるだけで、#220と#1000を簡単に切り替えることができます。
ウッドターニング用の刃物だけでなく、鉋刃・ノミをはじめ、ハサミ・包丁・電動カンナ刃・ナイフ・斧など、砥げない刃物はないと言わんばかりのジグの豊富さも魅力です。
木工全般の砥ぎ、普段使いする刃物の砥ぎまで全部カバーする砥ぎ機をお探しなら、トルメックを選んで間違いありません。
それだけにお値段も木工旋盤を1台購入できるほど。治具も合わせればチャックや刃物を揃えたときと同じぐらいかそれ以上の金額になります。(それだけの魅力はある商品ですが…)
トルメック ウッドターニング用の別売ジグ(一部)
砥ぎ機比較
|
両頭グラインダー& |
ベルトサンダータイプ |
水冷式砥ぎ機 |
価格(ジグも合わせて) |
約4~6万円 |
約7万円 |
約11~16万円 |
砥げる刃物 |
ターニングツール |
ターニングツール |
あらゆる刃物 |
砥石種類・粒度の変更 |
△ |
◎ |
○ |
砥ぎ直し |
○ |
○ |
◎ |
刃先形状変更 |
○ |
○ |
△ |
※価格はウッドターニングに関係するジグのみを購入した場合にかかる大まかな合計金額です。
どうしても砥ぐ環境が整えられない、そんな場合の選択肢
木工旋盤と砥ぎの環境を同時に揃えるとなると、金額的に結構な負担になってしまいます。
また、スペース的な余裕が無くどうしても砥ぎ機自体導入が難しいという方もいらっしゃると思います。
そんな「どうしても」の時の選択肢として、砥ぎ機を使わない方法をご紹介させて頂きます。
旋盤+木材+サンドペーパーで砥ぎジグを作る

旋盤で使える、木材の外周にサンドペーパーを貼ったジグを作ります。
ツールレストに刃物を乗せて、両頭グラインダーで砥ぐ時と同じ要領で砥ぐことが出来ます。
とても簡単に作れるジグで、旋盤で行うのでスペースも取りません。
フリーハンドで砥ぐことになるため、刃物によっては砥ぎが難しいです。両頭グラインダーと専用のグラインディングジグを使うのに比べて、角度を正確に合わせることができないため長く使っていると刃先が思わぬ形になっていて以前と使い勝手が違う、といったデメリットもあります。
替刃式の刃物を使う

ターニングツールの中には先端に取り外しできる刃が付いている「替刃式」タイプのものがあります。
替刃式は切れ味が落ちたら刃を回転させて、全ての面を使い終わったら新しい物と交換。砥ぎを行う必要がありません。砥ごうと思えば小さくて平らなダイヤモンド砥石などで砥ぐことができます。
替刃式のデメリットは全てスクレーパータイプになるため、旋盤作業において形を作ることには向いていますが、ガウジのようにきれいな面を作りながら削ることが難しいです(シアーカット・スクレーピングと呼ばれる、上級者向けのテクニックが必要です)。
また、スクレーパータイプは例えると爪で引っ掻くような削り方になるため、ウッドターニング特有のシュルシュル削る楽しみ方は望めません。
最終的に出来上がる形を作ることが目的の方には替刃式はとても良い選択肢になると思います。
さいごに
ターニングツールに必須となる砥ぎについて一通りご紹介させて頂きました。
切れる刃物で作業することは作品の仕上がりだけでなく安全にも繋がります。
ご自分に合う環境を用意して、安全・快適にウッドターニングを楽しんでください!